理事長挨拶

 

精神医療のグローバル化
~現代社会のニーズに応える必要がある~

医療法人社団 榎会 / 医療法人社団 明善会
榎本グループ会長 / 医学博士 / 理事長
榎本 稔

榎本稔理事長

日本社会の20世紀は激動の世紀であった。世紀の前半は、日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦と「戦争の時代」であった。

第二次大戦後、日本社会は「混乱と再建の時代」(昭和20年代)を経て、「高度経済成長と安定化の時代」(昭和30年代)となった。40年代には「激動と多様化と国際化の時代」を通り、50年代には「バブルと不確実性の時代」に突入し、豊かな社会における社会病理が噴出し、反省と模索の時代を迎えた。平成期に入り、バブル崩壊とともにデプレッション(経済的には不景気、社会心理的にはうつ病)の時代に陥り、自信を喪失し、方向舵を失い、先行き不透明の霧の中に、日本社会は迷い込んでしまったのである。現代社会は大量生産、大量消費の豊か な社会となり、大衆社会現象を露呈するに至った。

マスメディアとパソコンと携帯電話の異常な発達により情報が氾濫し、情報化社会を現出した。社会機能の専門家・細分化が進展し、各集団間の衝突と分裂をきたし、調和を欠いたアモルフでアノミーの状態を呈するようになった。

現代人は多数の集団に分属し、自己の内部においても、分裂した不統一の人間像を呈し、孤独で著しく不安定な状態に立たされているのである。男女の人間的表現と自己主張、個人の主体性を尊重する現代家族は、統一体としての家族意識が希薄化し、その都度、結合・離散する、合理的で機能的で個性的な、砂糖菓子のような存在に変質してきている。

多様化した価値観の中で、方向性を失い、疎外され、生き甲斐を喪失し、空洞化した心をもつ現代人には、相談やカウンセリングや精神療法が必要となっているのである。

21世紀は「心の時代」ともいわれているが、開幕早々、米国の同時多発テロ、アフガン戦争、イラク戦争(文明の衝突?)などさまざまな事件が相次ぎ、「不安な時代」となっている。

さらに世界はグローバル化し、国際競争はますます激しくなり、仕事も結婚も生き方も、すべて自己判断し、自己責任において、自立した行動をとらなければならなくなってきた。人々はつねに自立を求められ、孤立し、心の癒しを失ってしまったのである。

社会的文化的変動とともに、精神医療も大きく変化してきている。かつては統合失調症中心の、入院治療中心の精神医療であったが、現代の疾病構造は大きく変わり、外来通院治療、デイケア治療への変換をとげてきている。統合失調症も定型例から境界例・人格障害・行動障害型へと推移してきている。さらにいろいろな段階で、さまざまなタイプのうつ病圏や神経症圏の病態像が増えてきた。そして子ども・思春期・青年期と老年期の相談が増加し、それぞれの患者が増えてきている。

最近の傾向として、不安と抑うつ傾向、強迫的傾向、自己愛的傾向の主訴・相談が増え、その結果、アディクションの精神病理としてのアルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、家族依存症(引きこもりとニート)、摂食障害、児童虐待やDV等が増えてきた。とくに目立って増えてきたのは、性依存症(性犯罪、痴漢、盗撮、露出狂、小児性愛の加害者等)である。それも、大学教授、医師、中学校長、銀行マン、公務員等、それなりに社会的地位・身分のある人々が、である。さらに万引き依存症(クレプトマニア)やインターネット依存症が増えてきている。

そして、若年層の「新型うつ病」が登場してきている。「社内うつ」で「社外」では友人と楽しく遊んでいる。自ら「うつ病」と称して診断書を求めて来診する。休暇中に気分転換にと海外旅行に出かけていくのである。従来の薬物療法では効果はあがらない。また発達障害ブームで、診断を求めて来診する親子が児童外来に押しかけてきている。

2011年7月6日、厚生労働省はWHOの発表を受けて、従来の癌、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4大疾患に加えて、精神疾患を追加し、5疾患5事業とする方針を固めた。精神疾患が「国民病」と認められたのである。このような精神疾患の世界的広がりとともに従来の薬物を中心とした入院治療、外来治療、デイケア治療等では対応できなくなってきているのである。これらの心の病(現代病)に対してさまざまなアプローチ、相談、治療が試みられているが、今後、新しい考え方や方法論、相談技法、治療論、受け皿を創意工夫し、展開していく必要がある。

われわれは、都中心部(新大塚と飯田橋と御徒町と大森と小岩)に地域精神医療センターとしてデイナイトケア・クリニックを開設した。榎本クリニックの前途は夢と希望に満ち溢れている。

プロフィール

 

昭和10年 東京都荒川区生まれ
昭和29年4月 東京大学教養学部入学
昭和36年3月 東京医科歯科大学医学部卒業
昭和44年4月~昭和50年7月 成増厚生病院副院長
昭和50年8月~昭和56年8月 山梨大学保健管理センター助教授
昭和56年9月~昭和63年7月 東京工業大学保健管理センター助教授
昭和63年8月~平成4年2月 東京工業大学保健管理センター教授
平成4年8月 榎本クリニック開院
平成9年3月 医療法人社団榎会 榎本クリニック開院
現在 医学博士 社会精神医学専攻
元東京工業大学教授
拓殖大学客員教授
日本「性とこころ」関連問題学会理事長
日本「祈りと救いとこころ」学会理事長
日本外来精神医療学会名誉理事長
日本精神衛生学会理事
全日本断酒会連盟顧問
東京都精神障害者家族会連合会相談医
東京池袋ロータリークラブ会員
政経同志会幹事

 

著書紹介

 

  • かくれ躁うつ病が増えている なかなか治らない心の病気

    かくれ躁うつ病が増えている
    なかなか治らない心の病気

    2010年
    法研

  • 依存症がよくわかる本

    依存症がよくわかる本

    2007年
    主婦の友社

  • アルコール依存症 回復と社会復帰

    アルコール依存症
    回復と社会復帰

    1992年
    至文堂

  • アルコール・薬物依存症者に 出会ったとき

    アルコール・薬物依存症者に
    出会ったとき

    1992年
    エイド出版

  • テキストブック アルコール依存症

    テキストブック
    アルコール依存症

    1996年
    太陽出版

  • にがい宴 女性のアルコール依存症

    にがい宴
    女性のアルコール依存症

    1992年
    太陽出版

  • こうして酒を断っている アルコール依存症からの復帰

    こうして酒を断っている
    アルコール依存症からの復帰

    1989年
    太陽出版

  • お父さんお酒をやめて アルコール依存症克服の軌跡

    お父さんお酒をやめて
    アルコール依存症克服の軌跡

    1990年
    太陽出版堂

  • 医者と患者

    医者と患者

    1992年
    平凡社

  • 現代のエスプリ 性とこころ - 女と男のゆくえ

    現代のエスプリ 性とこころ
    – 女と男のゆくえ

    2000年
    ぎょうせい
    榎本稔 編著

  • 榎本稔 著作集 Ⅰ

    榎本稔 著作集 Ⅰ

    2005年
    日本評論社

  • 榎本稔 著作集 Ⅱ

    榎本稔 著作集 Ⅱ

    2005年
    日本評論社

  • 榎本稔 著作集 Ⅲ

    榎本稔 著作集 Ⅲ

    2005年
    日本評論社

  • 榎本稔 著作集 Ⅳ

    榎本稔 著作集 Ⅳ

    2012年
    日本評論社

  • よくわかる依存症

    よくわかる依存症

    2016年
    主婦の友社

  • 榎本稔著作集Ⅴ

    榎本稔著作集Ⅴ

    2017年
    日本評論社

  • ヒューマンファーストのこころの治療

    ヒューマンファーストのこころの治療

    2017年
    幻冬舎

  • メンタル医療革命

    メンタル医療革命

    2018年
    PHP研究所